うんこ置き場

房ノート有料化に伴い汚物、垂れ流します

女性向けのエッチ小説です。

激しい頭痛で目が覚めた。
意識は朦朧としており、全ての記憶がぐちゃぐちゃに掻き乱され、散らばっている。
辺りは薄暗く、時折橙色の灯りが視界の端を通り過ぎていく。
ここはどこだろう。私は何をしていたんだっけ...。
混線した脳回路を働かせようとするが、思考は霞がかかったようにぼんやりとしている。
埃っぽいフラットシートの匂いや、微かな煙草の匂いが鼻奥を突き、思わず咽せた。
なぜか呼吸が苦しい。今になって得体のしれない何かによって口を塞がれていることに気づく。
暗闇に慣れてきた眼によって、ここが車内だということが少しずつ分かってきた。
人の気配。雰囲気から隣で男性が運転していることが感じ取れる。一体誰なんだろう。
「目、覚めたかな。」
優しくて、包み込んでくれるような落ち着きのある声。
聞き覚えのある声だ。だけどそれが間違いであって欲しくて、誰の声なのか分かりたくなかった。 
男は運転席から手を伸ばし、ドリンクホルダーから潰れた煙草を掴み取る。
角張り筋の通った華奢な手は間違いなく見慣れた誰かの手だった。
頭の中で今置かれている状況が少しずつ明らかになってきた。
車内に充満する安い整髪料の匂いを嗅ぐと、彼の輪郭はより鮮明に浮かんでくる。
横を見ると見覚えのある色褪せたスーツ姿が目に入り、疑惑は確信へと変わっていった。
信じたくはないが、先生だ。その瞬間息が詰まり声が出なくなった。
男は年代物のジッポライターで煙草に火を付け、気だるげに口に咥える。
本当に先生なんだろうか。煙草を吸っている先生を一度も見たことが無かった。
潔癖ともいえる先生の性格から、煙草は最もかけ離れた存在に思えた。
男がふうと息を吐きだすと、生暖かくて薄暗い雲が車内に立ち込めた。
その息遣いの生々しさは、身体中が溜息に包まれているような錯覚をさせた。
デジタル時計の表示が2:58へと切り替わり、車内を怪しく緑色に照らす。
ここが現実なのか夢の中なのか分からなくなり、妙な浮遊感が私に襲いかかった。
運転席の男が、誰か知らない全くの別人のようにも思えてきた。
男がどんな表情をしているか分からないが、ほくそ笑んでいるかのようにも思えたし、
項垂れたような暗い表情をしているようにも思えた。
私は男に声を掛けて、本当にそこに先生が存在しているのか確かめたかった。
埃を大量に吸った喉を振り絞って声をだそうとするが、それはうぅあと言葉にならない呻きになって、情けなく零れただけだった。
「まさか私の過去を嗅ぎまわっていたとは、思いもしなかったよ。」
淡々と先生は喋りだす。それは私に話しかけているというよりは、自分自身に語り掛けているようだった。
「私のことを恨んでいるかい?」
先生は視線を前に見据えたまま、控えめに苦笑いする。
そこには凶悪な連続殺人鬼はおらず、いつもの先生の優しい微笑みしか無かった。
私は何か応えようとして、言葉に詰まる。
これから起こるであろう事態と、目の前にいる先生がどうしても結びつかなかった。
「でももう誰にも止められないんだ。自分でさえ止められないんだよ。」
先生は困ったようににぎこちなく微笑み、それを誤魔化す様に灰皿へと手を伸ばした。その手は微かに震えていた。
先生は無造作に垂れた前髪を掻き揚げた。月明かりによって通った鼻筋が照らし出される。
先生は重い溜息をつくと、瞳を伏せて何か物思いに耽っているようだった。
その横顔は今まで見てきたどの表情の先生とも違っていた。
今はただ彼に触れて、瞳を見つめていたかった。二人で車に乗っていても先生はどこか遠くにいて、触れることすらできないような気がした。
手を伸ばしてどれだけもがいても、先生は深い海底に沈んでしまって届かないような気がした。
黒のセダンはウィンカーを出して高速を降りる。
見慣れない標識や地名を見て、全てが二度と元には戻らないのだと、今になってはっきりと分かった。
 
車は雑木林で停まった。
車内は暗い闇に包まれており、カーオーディオの淡い光だけが、二人の輪郭を映し出していた。ラジオの音量は最小まで絞られており、人の声とも取れるノイズや名前も知らないクラシックが時折聞き取れるのみだった。
車内は蒸し暑く、額からは生温い汗が流れ、ワイシャツは背中にへばりついていた。
先生は後部座席に手を伸ばして、後ろの席のボストンバッグから何かを取り出す。
その一瞬、ボストンバッグの隙間からタガーナイフがギラリと鋭い光を放つのが見えた。
思わず息を飲む。私はこれから殺されるのだ。
死の瞬間が近づくのを感じた身体は、タガが外れた様にガクガクと震え出す。
死が現実味を帯びてくると、形容し難い恐怖が沸々と湧き上がってきた。
次第に息が上がり、心臓はバクバクと大きな音を立てる。そのうちにぜえぜえと嗚咽にも似た激しい呼吸へと変わった。
脳は思考を失っていた。私は軽いパニック状態に陥り、無理矢理身体を捻って、ドアに全身を思い切り叩きつける。
「動くと痛いよ」
身体が石のように固まる。喉元にひんやりと冷たい感触があった。
耳のすぐ近くに先生の息遣いを感じる。
先生の落ち着き払った態度は、切迫した車内の空気とはかけ離れたものであり、異様に感じられた。
先生は静かにナイフを置くと、私の口を塞いでいたダクトテープを一気に剥がす。
唇周辺の皮膚に痛みが走り、思わず顔を歪める。
先生は鬱血して赤く潤んだ唇をゆっくりと親指でなぞる。